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16/10/19

【井上和郎・選手引退】『ロード選手が仕事』で良かったこと


(2015年 全日本選手権)


プロスポーツ選手にとっての引退。そこには一般社会生活における転職とは違った想いがあるのでしょう。アスリートとして、チームとして、ロードレースという非日常の世界で勝利を目指すことを日々の糧とする人は、そこから身を引くと決めるまでに、どんなことを考えたのでしょう。


ブリヂストン アンカー サイクリングチームの井上和郎は、2016年シーズンをもって、プロロード選手を引退します。


2003年にブリヂストン アンカー入りしてプロとなった井上は、選手生活14年間のうち2003~05年、そして2011年から現在に至るまで、のべ9年間をブリヂストン アンカーとして戦いました。そして今年、2016年の全日本選手権では、積極的に集団をコントロールし、チームを勝利へ導きました。



(2016年 全日本選手権)


チームが勝利できる舞台をつくる。この影なる大役を確かに務めてきた1981年生まれ35才の仕事師、井上和郎は、その仕事から身を引くと決めるまでに、なにを考えたのでしょう。話を聞きました。

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(2016年 ツール・ド・ブルターニュ)


ーー14年間、選手としてやってきて

やりきった、とか、満足した、とかそういうのはあまりなくて。あのとき失敗したな、とかはいっぱいありますけど。超一流選手が「やりきったので辞める」というケースもありますけど、僕に関して言えば、ビッグなタイトルもないですし、Jプロツアーでも表彰台に乗っていないんですね。ですから、やりきったというのはないんですが、でも、やりきって辞めていく選手というのもあまりいないと思いますしね。



(2016年 ツール・ド・ブルターニュ)


ーー引退を決めたのは

何年か前から引退かな、って思ってました。チームにいても主要なレースから外れることも多くなってきて。ネガティブに聞こえますが、でも、新しい世代が出てきたということですからね。

2011年にアンカーに戻ってきて、2004年から全日本のタイトルがなくて、そんなので、ここのところ毎年、『今年獲って終われたらいいな』って思っていました。

もちろん自分にチャンスはありました。2014年の全日本で2位になりましたしね。でもここ2年ぐらいは、完全にチームのアシストという形で走っていました。



(2014年 全日本選手権)


そういうアシストとしての役割は嬉しかったですが、選手としては寂しい気持ちにもなっていました。それでも全日本タイトルを獲れたのは1つの結果、悲願を1つ達成したという気分になりました。

応援してくれる人もいますし、支えてくれる人もいます。自分自身もレースを続けたいという気持ちで来たんですが、そのなかでも「何かを達成して終わりたい」というのがあって、それが2016年の全日本タイトルだったということです。



(2016年 全日本選手権)


ーー選手として一番うれしかった瞬間


一番うれしかったのは、最終的には今年の全日本ですね。チームで、初山(翔)がタイトルを獲ったこと。ロードレースはチーム競技です。チーム一丸となって、そこにフォーカスして、結果を出せた。そのなかに自分がいて、しっかり仕事ができた。この想いは大きかったです。



(2016年 全日本選手権)


ーー選手としての自分を解説すると

最初チームに入ったとき、徹底的に集団コントロールの技術を叩き込まれたんですね。練習でもメニューに組まれて。その時のアンカー チームは強くて、国際レースでもたいてい勝っていたリーダーチームだったんで、集団コントロールの技術が必要だった。そこで徹底的にそのやり方を学んで、やっていたんです。

アンカーにも、勝って勝って強くて入ったわけではなかった。でもだからこそ、仕事しなくちゃいけないところで、頼ってもらえたりした。こうやって14年間契約してもらえて、仕事を与えてもらえたのは、幸せですね。

長く選手をやってきたことで、選手として必要なところでもあるワガママなメンタルが丸くなったのかなとも思いました。自分がエースでなくても、仕事をするというね。



(2015年 全日本選手権)


ーーロードレース選手が仕事、で良かったこと

他の仕事をしたことがないんで、僕としての気持ちですけど、他じゃ絶対できない経験でした。好きなことをしながら生活できましたし。関わってくる問題も、好きなことをやるうえでの代償、それも走るための仕事の一部なんですね。それらに向き合えたというのは幸せでした。

そして、レースの瞬間、なにかに集中して取り組んでいる瞬間、そういったときの集中力、緊張感。これは選手独特なんじゃないかと思うんです。そういったスポーツでしか味わえない、とてもいい瞬間ばかりを味わえたことですね。



(2014年 全日本選手権)


ーーチームに残したい言葉

「向上心」ですかね。常に上を目指していくという、それぞれの思いですね。現状維持しようとすると、どうしても退化しちゃうと思うんで。向上心を持ち続けないと、前には進めないかな。

僕が一番最初チームに入ったときには、とにかくヨーロッパを目指したいという選手が多かった。今思えば、そこに身をおいて、選手としての最初の段階を過ごせたのは大きかったですね。チームは、そしてチームの選手も新たな目標を常に掲げて、そこに向かい突き進んでいく、というスタイルを取り戻して欲しいですね。


ーープロ選手になりたい若い人へのアドバイス

やっぱり、向上心、ですね。



(2016年 ツール・ド・ブルターニュ)


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プロとしての井上が残すレースは、ジャパンカップとツールドおきなわ。

「どちらも思い入れがあるレースなので、力の限りいきます。できればジャパンカップは逃げて山岳賞獲りたいですね」とのこと。

「とくに近年のジャパンカップはお客さんの数が多いですから。そんな大勢から注目を浴びるレースを走るのも、選手ならではの瞬間を味わえるのも、これで最後でしょうからね」



ジャパンカップは、10月23日。ツール・ド・おきなわは、11月13日。仕事師井上が、自らのプロ生活を締めくくる走りを見せます。井上へのご声援、そしてチームへのご声援を、みなさまよろしくお願いいたします。