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17/05/02

【沢田時に聞きました】「プロサイクリストにとって骨折とは」


photo:K. Tsuji

昨年の骨折をきっかけに、名実ともに日本最強のMTBレーサー、シクロクロスレーサーと大きく変貌したブリヂストン アンカー MTBチームの沢田時。

今年の開幕戦では、男子XCOエリートとしては結果は残せたもののU23の選手に最後抜かれて納得のいかない走りとなった沢田。しかし、逆境こそをバネにできるのが、昨年の沢田が証明した強さの理由です。

世界選手権試走時の骨折、全日本選手権の欠場。人生で最悪だと思われた怪我は、人生で最強となるためになくてはならない材料でした。沢田がその昨年の骨折、そして復活までを改めて振り返ります。

先のダミアン・モニエの話も含め、いま怪我をしているサイクリストへ、ひとつの希望になればと願います。


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2016年6月30日、チェコで開催されるMTB世界選手権のために現地で試走中、ハイスピードなジャンプセクションでバランスを崩して地面に叩きつけられた。頭も強く打っていたために転倒直後の記憶はあまり残っていない。気がついたら病院のベッドの上で、左肩をギプスで固定されていた。

レントゲンでの診断結果は左の鎖骨骨折。日本に帰国してからの再検査で左肘も骨折していることが分かった。それは僕の競技人生で初めての大怪我であり、最悪なタイミングでもあった。3日後には世界選手権、そして2週間後には全日本選手権を控えていた。厳しいと分かっていても、病院まで付き添ってくれていた雷太さん(ナショナルチーム監督:鈴木雷太氏)に「全日本は間に合いますかね?」と聞いた。雷太さんは苦笑いを浮かべながら「トキは出るだけじゃなく勝たないといけないからな…」と答えてくれたことを覚えている。

ジュニア時代からこれまで一度も負けたことがなかった全日本選手権。目標にしてきたU23クラスでの四連覇は、欠場という思わぬ形で断たれることとなった。レースで負けるよりも悔しいことがあるんだなと思った。



でも落ち込んでいる暇はなかった。手術のためチェコからすぐに帰国したが、その時に小林監督と「1分1秒でも早く怪我を治す。そして強くなって復活する」と約束したからだ。僕にとってこの約束を果たすことが全日本に替わる新たな目標となった。

骨折してから1週間後には両手放しでローラー台に乗れた。脚は普通に動くことにとても安心した。手術を終えて鎖骨にプレートを入れてからはハンドルも握れるようになり、ローラー台での練習にストレスは感じなかった。

トレーニングの指標とするパワー数値を少しずつ上げながら、毎日限界まで自分を追い込んだ。TSS(トレーニングストレススコア)で言えばオーバートレーニングになっても不思議でなかったと思うが、練習へ対するモチベーションは非常に高くて疲れは感じなかった。そして毎日が昨日の自分より強くなれているという実感があった。

最初は動かなかった左手が少しずつ回復して、日常生活を不自由なく送れるようになっていくことも楽しかった。あまりにも僕がハイテンションなので、家族は少し気味悪がっていたぐらいだ。体重を増やさないようにと食事にも気を遣っていたが、練習量が増えるにつれて自然と身体は絞れてパワーウエイトレシオは怪我をする前よりも格段に上がった。


そして医者の許しを得て1ヶ月ぶりに外で自転車に乗った時、間違いなく自分が過去最強に強くなっていて1ヶ月間のローラートレーニングが無駄でなかったことを確信した。久しぶりに自転車に乗れたことよりも、怪我をきっかけにより強い自分になれたことがとても嬉しかった。

手術の日から2ヶ月後、復活戦となったCJ白馬大会では、その実感どおりに優勝を果たせた。強くなって帰ってくるという監督との約束を果たした瞬間であり、ゴールした時は涙が出るほど嬉しかった。その後も連勝でシリーズチャンピオンを獲得。12月には全日本シクロクロス選手権で勝って日本一となった。


怪我をきっかけに強くなれたことは間違いないが、そこに秘密はなにもない。より真摯に自分自身と向き合ったということに尽きる。よく勘違いされてしまうが、歯を食い縛りながら厳しいリハビリと練習に耐えて、苦しみ抜いて復活したとはちっとも思っていない。

確かに全日本に出られずに悔しい想いはしたが、思い返せば、あの夏は僕にとってそんなに辛いものではなかった。復活に向けてかつていないほどのスピードで成長していく自分への期待、そして自転車に乗れる喜びをいつも以上に感じながら良く練習した夏といった感じだ。そしてあの時に手に入れた気持ちの高まりと、自転車競技へ対する高いモチベーションは、怪我から1年経とうとする今でも全く失っていない。

しかしできることなら、あんな大怪我はもう二度としたくない。痛いのはとにかく懲り懲りだし、次に骨を折ってしまった時には、復活への期待がさらに大きくなっていそうで、それはそれで怖い。


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